第六回 普段は一人でも平気。でも、結婚したいタイミングが2つある

 

 

35歳。恋人と別れた直後、大手結婚相談所に入会した

 

急に心細くなってひと肌が恋しくなるタイミングは男性にもある。親しい独身仲間が結婚するときだ。自分だけが置いてけぼりにされた気分になってしまう。

筆者の場合は30歳前後がその時期に該当した。20代半ばを過ぎると、学生時代の友人たちが3カ月に1度ぐらいのペースで結婚式を挙げるようになり、懐も心も寂しくなる。極めつけは、毎月のように一緒に合コンをしていた悪友がその合コン相手の一人と「授かり婚」をしたことだった。普段から寂しがりの筆者は急に孤独感を募らせ、相性の良くない女性と慌てるように結婚して1年後には離婚した。愚かだったといまなら思える。

ハイステータスな専門職として働いているサヤカさん(36歳)は、普段は一人でも平気なタイプだと自認している。しかし、親しい女友だちが結婚をするときは筆者と同じように焦りを感じると告白する。

「もう1つの婚活タイミングは、恋人と別れたときです。1年付き合っていた彼氏と去年(2017年)の冬に別れたときは、大手の結婚相談所に入会しました」

サヤカさんは結婚相談所の担当カウンセラーと相談し、海外留学を含めた高い学歴と職歴を隠さずにプロフィールに書いた。それで敬遠するような男性とは、仮に交際しても長続きはしないからだ。

「相談所のおかげで10人の男性とお会いすることができました。私は間口が広いほうで、出会った人のいいところを探す自信があります。7人ぐらいとは2回目に会ってもいいなと思いました」

ただし、実際に何度か食事をしたのは1人のみだ。元来が「一人でも平気なタイプ」で仕事もハードなサヤカさんは、自分の休日を空けてまで見知らぬ「良さそうな人」と会うことに積極的にはなれなかった。おそらく相手の男性たちも同じような気持ちだったのだろう。お互いに連絡を取らずに立ち消えになってしまうケースが続いた。

 

「あなたに合う仕事は絶対にある。じっくり考えたほうがいい」

 

唯一、きちんと連絡をくれたのが会社員のカズヒサさん(45歳)だった。サヤカさんのような激務のエリートではなく、会社を定時で上がってスポーツジムに通うことを楽しみにしている平和な男性である。サヤカさんの理想のタイプに近かった。

「普通の人がいいです。生活できる程度に働いていれば高給取りである必要はありません。何か一つ趣味を持っていて楽しんでいる人に魅力を感じます。家事はそんなにできなくてもかまいません。ご飯を一緒に食べて『おいしいね』と言い合えて、私がしゃべっていることを一応はわかってくれて、あまり賛同しなくても相づちを打ってくれたら嬉しいです」

カズヒサさんは「相づち」以上のことをしてくれた。当時、いま以上に仕事に忙殺されていて会社を辞めようかと真剣に悩んでいたサヤカさんの話を聞き、こんな風に言ってくれたのだ。

「あなたに合う仕事は絶対にあります。転職するにしてもしないにしてもじっくり考えたほうがいいですよ」

この言葉を思い出すとき、サヤカさんはいまでも癒しを感じる。まだ恋人でもない男性が正面を向いて自分を肯定してくれたのだ。

簡単なようでいてなかなかできることではないと思う。筆者を含めた男性は、美女やエリート女性と向き合ったときに斜に構えてしまう傾向があるからだ。ちょっと意地悪を言ったり、いちいち反論をすることで「オレをなめるなよ。骨がある男なんだぞ」とアピールしたくなる。単なる面倒くさい男になっていることも知らずに。

「私はエリートなんかじゃありません。若い頃と違って仕事で行き詰まることも多くて自信がないんです。だから、自信を持って生きている人が好きになります」

 

そこまでして会いたいのかと考えたら、動けない自分がいた

 

カズヒサさんはぴったりの人物だった。しかし、サヤカさんはさらに仕事が忙しくなり、デートの誘いを断り続けてしまう。3か月ほど後に仕事のピークを抜けたとき、結婚相談所のカウンセラーからは「また連絡してみたらどうか」と打診された。

「そこまでして会いたいのか、と考えたときにその労力を割けない自分がいました」

サヤカさんに言いたい。仕事は確かに重要だ。様々な責任も伴うし、社会的立場の核心でもあり、生活の糧でもある。人生の本筋だと言ってもいいだろう。

ただし、仕事は人生のすべてではない。ときには優先順位を下げて、大切なパートナーを作ったり家族を育んだりするほうに注力するべき時期もあるのではないだろうか。仕事の忙しさを言い訳にしていると、かけがえのない人間関係を築くタイミングを失ってしまいかねない。

サヤカさんの長い人生で、30代はあと4年弱しかない。そのうちの半年間ぐらいは仕事とキャリアよりも恋愛と結婚を優先する時間をとってもいいはずだ。次の「カズヒサさん」が現れたら、その手をしっかりと握ってほしい。

 

※登場人物はすべて仮名です。

 

 

イラスト:吉濱あさこ http://asako-gaho.com/