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第二回 「21文字でダメだった」

 

モテについて語る連載の第一回でモテや恋愛の効能をほぼ全否定してしまったため、第二回にして途方に暮れている状態である。

 

「恋愛じゃないとできないことってわりと少ないよね」「わたしも恋愛というエクストリームスポーツから距離を置いてだいぶ経ちます」という感想をもらう一方で、「とはいえ、人を好きになってしまう気持ちは抑えがたいよね」との声もいただいた。

 

わかる。

 

先日はついつい悟り澄ましたようなことを書いてしまったが、わたしとてかなり人を好きになりやすい、言ってしまえばチョロい方なのである。

 

 

数年前のある日、とんでもないメールが舞いこんできた。資生堂の広報誌「花椿」(※1)で、歌人の穂村弘さんと対談するという企画。さらに荒木経惟さんによる写真撮影があります、と担当の方のメールには書いてある。虫について書いた本『ときめき昆虫学』を、編集者が穂村さんに献本してくれたことが発端のようだ。

 

Facebookで「穂村弘さんと対談することになりました!」と報告したら、特に女性たちの反応がすごい。公に告知できる段階ではないので閲覧者限定で投稿しているのに、ファン率が高すぎる。出版や短歌を通じて会ったことがある人たちは、穂村さんがどれだけ素敵か、そしてどれだけモテるかをコメント欄でこぞって語ってくる。そのエピソードを見るに、穂村さん自身が恋多き男とかいうわけではなくて、ご本人は淡々としているのに周りの女性たちがどんどん正気を失っていくようなのだった。

 

モテすぎて、羨ましいというより大変そうだった。ご本人の落ち着いた風情と、恋や愛について詠まれた激しい歌のギャップにまいっちゃう人が多いのかもしれない、と、短歌にあまりふれたことがないわたしは、家に送られてきた穂村さんの歌集とエッセイを読みながら思った。対談前に著作を数冊送っていただけるということからも、企画担当者のか編集者の方のご意向か分からないが、「予習しといてねッ」という並々ならぬ意気込みを感じる。緊張する……。

 

撮影でどの服を着るか、というのも悩みの種だった。わたしが出るのは『穂村弘の、こんなところで。』というページで、穂村さんと回替わりのゲストが対談するものなのだが、事前に「ご参考になれば」と送られてきた画像は川上未映子さんの登場回。もちろん美しく堂々としていてお召し物も果てしなくオシャレであり、「ご参考にならんっ!!」とパソコンを投擲しそうになった。

 

対談が近づくにつれだんだんナーバスになっていき、謎の反抗心まで生まれてきて「もう嫌だ……対談いきたくない」「何がほむほむや! どいつもこいつもデレデレしやがって、ワシャ屈せんぞ!」と暴言を口走るわたしに、男友達が「そうだ! オシャレな職業の男なんて許せん! 対談が終わったらゴールデン街で飲もうぜ」と調子を合わせる。彼は基本的にモテる男が嫌いなのである。

 

 

対談当日、銀座の資生堂ビルに向かったわたしは、まず荒木さんに写真を撮られることになった。メイクは資生堂の方に念入りにしていただき、強いストロボにも負けないはっきりした顔になる。

 

水色のタンクトップの上に投網のような素材のカットソーを着ていたのだが、荒木さんの「おっぱいがでっかいんだからかくしちゃダメだ!」というコメントで投網は奪われた。胸はともかく二の腕とかいろいろ隠したいんだよ、と思ったが、アラーキーがイメージ以上にアラーキーで、拒否するという選択肢は浮かばなかった。「雌豹の気持ちになって! いいね~! ぎこちないね~!!」

 

メレ子には雌豹の気持ちがわからぬ。メレ子は、村の牧人である。週5は会社員、週7はネット弁慶で暮らしてきた。

 

さらに穂村さんとのツーショットを、銀座の路上で撮ることになった。「その街路樹にふたりで手を重ね合わせて置いて! もっと指をからませて!」と指示が飛ぶ。今思うと一枚脱ぐのも雌豹になるのも密着するのも企画の趣旨上、特に必要ではなかった気がするが、当時は合わせようとめちゃくちゃ頑張ってしまっていた。疑念がはじめて湧いてきたのが、数年後の今だというのが恐ろしい。

 

穂村さんが近い。入りのタイミングも違ったし、まだ挨拶くらいしかしていないが、たしかに落ち着いた雰囲気を漂わせている。レフ板を持ったアシスタントさんや関係者に囲まれ、通行人が怪訝な顔で通りすぎる。網も奪われて、もはや打ち上げられた魚だ……と気も遠くなりかけるわたしに気を遣ったのか、穂村さんがそっと言った。

 

「メレ山さんの恋人は、嫉妬とかするほう?」

 

うわー!!

わたしが穂村さんの立場なら、気遣うつもりで「仕事とはいえこんなに近づいちゃってすみません」とか「メレ山さんに恋人がいたら、こんな写真が載るとやきもちを妬かせてしまうかもしれませんね」と言ってしまうと思う。しかしそれではぜんぜんニュアンスが違う。「メレ山さんの恋人は、嫉妬とかするほう?」31文字どころか21文字でノックアウトだ。

 

言葉が職業の人、すごい。全然口説かれてないのに、勝手に流れ弾に当たっている。これは、災厄のごとくモテるわけですわ……モテる人へ勝手に抱いていた反感が消え失せ、なけなしの正気もいっしょに遠くのお山に飛んでいくのを感じたが、「あっ、いえ……フヒヒ……」みたいな気持ち悪い答え方しかできなかった。

 

 

フワッフワの気持ちで酒場に入ると、待っていた友達は「おつかれ! どうだっ…」と言いかけて「メレヤンが! 女の顔になってる!!」と騒ぎはじめた。

 

それから今にいたるまで、友人たちの中でわたしは「チョロ山チョロ子」という蔑称で呼ばれることになるのである。

 

※1:現在「花椿」はウェブ媒体になっている

 

 

 

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