第九回 夜のにおいの正体を知りたい

 

「モテ 香水 男」

よせばいいのにうっかり検索してしまい、出てきた文字列に立ちくらみを起こしている。

 

・モテすぎ注意のメンズコロン

・女子ウケ抜群のフレグランス

・ナンパ師が教えるモテる香水

・彼女を虜にするメンズ香水

……。

………………男たちよ! 目を覚ませ!

 

男女差別だと糾弾されてもいい。男のフレグランス関係には、毅然とした態度で挑みたい。香水でモテるという安易な幻想、万が一にもそれに科学的根拠があったとしたら、メンズフレグランス売り場のMBA(メンズビューティーアドバイザー)さんたちは、今頃トップスター並みにモテているはずではないか。「香水つけたらモテる」と本気で思っているのだとしたら、改心するまでどこかに収監された方がよい。モテたい一心で藁にもすがるような思いかもしれないけれど、現実に引き戻すために、あえて私が悪者になろう。宣言しよう。それは、紛うことなく愚行であり、大いなる逆効果である。

 

モテ欲が肥大化し、判断能力も嗅覚もバグを起こしているにちがいない。ただちに窓をあけ放ち、フレグランス系のビンをビュンビュンと投げ捨てようと言いたいところではあるものの、男以前に社会人として通報される可能性もある。この衝動をおさえながら、紙袋や新聞紙などでグルグル巻きにしてビンの日または不燃ゴミの日など、自治体のルールを厳守しつつすみやかに廃棄していただきたい。そのさい、「これは一度も使ってないし…」などの理由を持ちだし、メルカリで売ろうかななどとチンケなことを考えてはいけない。

 

男子香水は逆効果だと書いたけれど、流れやいきおいでそう思ったわけではない。確固たる、揺るぎない根拠がある。

くさいのだ。

くさいなどとやんわりオブラートに包んで自己抑制してみたものの、実際はくさいどころの騒ぎではない、汚臭だ。どんなものであっても、男性がつけていたフレグランス関係で「いいな」どころか「少しはマシ」と感じたものはひとつもなかった。ただただ吐き気と頭痛と動悸息ぎれ、さらにはめまい・貧血・神経のマヒを誘発する、悪臭を放つだけの凶器。それが、私にとっての男性用フレグランスである。もはやサリンに匹敵する。

 

とはいえ私も大人である。この世には、大便を食する性的嗜好もあるのだから、においの好みも千姿万態だってことくらいは知っている。なので、あのえげつない香水のにおいを芳香だと認識する人がいてもおかしくはない。きっといるのだ。ええ、いるでしょうよ。いたっていいですよ。けれども次の行動ステップ、男子が「香水を選んで買って付けること」にはやはり、個人的に抵抗を感じる。苦手だ、と思う。

 

恋人の家に初めて行ったとき、洗面所の棚にたくさんの香水ボトルが並べてあった。美か。美のつもりなのか。まだTENGAコレクションのほうがネタになるだけマシである。私が男子香水の類を汚臭と毛嫌いしているのを知ってか知らずか、彼がこれまでのデートでなんらかのにおいをつけてきたことは一度もない。そんな男がごていねいに、ボトルの色別にわけてきちんと陳列しているのだ。汚臭の入ったガラスのビンを、である。

 

人には好みがある。これらを良しとし、汚臭ボトルをうっとりと眺める女性もいるだろう。いやマジョリティはそちら側なのかもしれない。そんなことはこのさいどうでもいい。常日頃から「好きなタイプは寝グセ」などと公言している私が、今さらクールにキメた男の香りに甘んじるわけには断じていかないのである。

 

ただ、男が発する好きなにおいがひとつだけある。それは、人工的なものでも自家製の体臭でもない。引き連れてくるというイメージの、夜のにおいだ。「あ」と気づいたら逃げるように、5分もしないうちに消えてしまう儚いヤツの正体がいまだにつかめない。

 

 

ぼんやりと郷愁的な夜のにおいは、すっかり忘れたころにとつぜん現れる。冬の寒い夜、外から家にやってきた人を迎え入れたときだけやってくる。相手が親しければ、厚手のコートにブハーーと顔をうずめて思うぞんぶん夜を嗅ぐ。

 

まだもし君が、モテ香水の洗脳から解き放たれずに「どうしても香りでモテたい」と言い張るのならば、このにおいを身につけてほしい。同じ条件でも必ず入手できる保証はないし、もちろんカードや仮想効通貨でも買えなけりゃあポイントも貯まらない。けれどもさいわいなことに、チャンスは今の季節、しかも無料だ。

 

正体はなにか。冬。外気と室内の温度差が要因である可能性は高い。「あのにおいはなに?」と気になっている人はほかにもいるようで、検索したらいろんな意見があった。

鉄、生臭い、アスファルト、塩素、 土、埃、雨上がり……。

どうだろう? どれも少し近いような、けれどもぜんぜんちがうような、明確な「コレ」は見当たらない。ぼんやり迷宮入りである。それぞれがあのにおいに名前をつけて、冬の一時期だけ感じとっている。もしかしてこれは、ランダムなロマンチックじゃない? と思ってみたが、残念なことに大多数の人は「くさい」と敬遠しているようだ。好感を持って語っている人はどこにもいない。

 

エキスを抽出した香水がほしいとまで思っている夜のにおい。

いよいよ私の、におい嗜好の異常を疑うべきときがきた。

 

 

 

今週のWEB

Resident Evil 7 4D Candle

http://ur0.work/vPnm

バイオハザード7のプロモーションで販売された「ゾンビキャンドル」

血と汗、恐怖と木の焦げたにおいを体感することができます。