第4回 性欲のかわりに食欲で本を読んできた(前編)

 

手芸家のNさんは二人の思春期の子をもつお母さん。日々の仕事と子育てと雑事に明け暮れ、ふだんから「モテ」について考えることはなく、またこれまでも本に「モテ」の要素を求めることはなかったそうです。

本とモテについてお話きかせていただけますか?

 

私はモテとか恋愛とか、胸がキュンキュンするような本をまったく読んでこなかったんです。人の心の機微を描いたような文学作品とかはまったくで、エンタテイメント小説ばかりですね。

それに、これまでにモテたことなんてないですよ。蚊喰さんはモテてました? 誰かに思いを寄せられたりしてました?

 

いいえ…私もさっぱりわからない世界です……。Nさんはどんな本を読んできましたか?

 

10代も20代も30代も、そして今もミステリ小説です。

名探偵ポワロ、アガサ・クリスティ、ミス・マーブル……とくに田舎の閉塞感のなかでおこる村ぐるみの殺人事件とか大好きで。

 

私も田舎育ちなので、横溝正史とか大好きでした。

 

BBCのドラマも好きでよく見ますね。刑事が聞き込みに行ったとき、その家で出てくるお菓子がちゃんとヴィクトリアンサンドイッチだったり。そして再度聞き込みに来たときにまた同じものが出てきて、残ったケーキを出したんだな、みたいな。描写がよくできているんですよ。

 

 

 

Nさんおすすめの食欲を満たす2冊。(ともに品切)
『シャーロック・ホームズ家の料理読本』はハドソン婦人が書いたていで書かれています。
『メグレ警視は何を食べるか?—フランス家庭の味100の作り方』は料理本なのに写真やイラストがなく、文字のみで最大限に想像をふくらませることができます。

 

 

食べ物が好きなんですね。レシピ本はよく読みますか?

 

いいえ、料理そのものというよりも、「お話の中に出てくる料理」が好きなんです。昔のエッセイなんかに食べ物の話が出てくると、つい読み込んでしまいますね。

思春期に性欲よりも食欲のほうにいったんです、私は。まず胃弱だからあまり食べられないということもあるし、昭和育ちだから海外の料理に憧れもあるし。

 

思春期に色気づいてくると、満たされない性欲からエロ本を求めますよね。いっぽうNさんは満たされない食欲を、料理描写が魅力的な本で埋めてきたのですね。

 

 

ポプラ社から出ている「怪盗ルパン」が好きで子どものころによく読んでいたんですよ。ルブランの原作を、南洋一郎が子ども用にお話を書き換えているシリーズで、意訳すぎてルパンがあのルパンじゃない…笑

 

 

ああ、私の小学校の図書室にもありました!私は乱歩派でしたが。

 

ある話に「三日月パン」というのが出てくるんですよ。「三日月パン」って、何だと思います? クロワッサンのことなんですね、いま思えば。舞台がフランスだから。子どもの頃はそれがわからないから、もう想像をふくらませにふくらませていました。

ようするに私は、そういう食べ物にまつわる話が大好きなんです。

 

 

古川緑波『ロッパの非食記』(ちくま文庫)

昭和のコメディアン、古川緑波が記した食べ物日記。今回のインタビューはドイツ料理屋さんにお誘いしたのですが、Nさんに店名を告げたとき「ロッパのエッセイに出てくる、今はない銀座ケテルの系列ですね!」とすぐお返事が。さすが。

 

 

わかりました。食べ物の話をしているときのNさんの目、だんぜんモテの話をしているときより、生き生きしています……(後編につづく)

 

 

 

 

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