第十二回「缶けり」に夢中になりすぎて高3の夏を棒に振った男

 

 

 

■男子高に空前の缶けりブーム到来

 

 

男だらけの閉鎖空間に閉じ込められ、異性とイチャイチャすることもなく、異性にアピールする必要もない。男子高生の日常はだいぶヒマだ。

ヒマをこじらせると、往々にして人は「やらんでいいこと」をやりはじめるもの。

高校3年生の頃、クラス内で空前の「缶けり」ブームが巻き起こった。

「缶けり」に熱中って、中学生だったとしてもかなり頭が悪いが、十数人の男子高校生たちが毎日昼休みになるたびに超本気で「缶けり」をやってたんだから、相当に頭のネジがゆるんでいる。

「缶けり」ブームがどんなきっかけではじまったのか詳細には覚えていないが、おそらく、それまで「ブリックパック」オンリーだった学校内の自動販売機に「缶ジュース」が導入されたことが遠因となっていたと思われる。

「そこに、飲み終わった空き缶があったから」

頭ユルユル高校生は、そんなシンプルな理由で「缶けり」道を突っ走ってしまうのだ。

ただ一言に「缶けり」といっても、子どものやるソレとはまるで別モノだ。小学生の「缶けり」が草野球だとしたら、高校生の「缶けり」は『アストロ球団』。

陸上部の俊足、サッカー部のキック力、写真部の索敵能力、帰宅部の隠密能力……各自が部活動で鍛え上げた肉体を全力で「缶」にぶつける異種格闘技だ!?

「缶けり」には地方によって様々なルールがありそうなので一応説明しておくと、

・ジャンケンで負けた人が鬼
・鬼以外の代表者が缶を蹴っ飛ばし、鬼がその缶を回収して元の場所に戻すまでの間、みんなは逃げ&隠れる
・鬼が隠れてる人を探し出し「○○見つけ!(名前を呼ぶ)」と叫んでから、定位置に置いてある缶を踏むと、見つかった人は捕虜に
・捕まった人も、鬼自身が誤って缶を倒したり、誰かに缶を蹴られたりしたら再び逃げられる

単純な「鬼ごっこ」や「追いかけっこ」とは違い、缶を蹴られたらそれまで何人捕まえていてもパーというルールはスリリングで盛り上がるが、鬼が不利すぎて明らかにゲームバランスが悪い。

小学生がやっていたとしても、一度鬼になってしまったらなかなか抜け出せないが、高校生のやる『アストロ球団』な缶けりはさらにハード。

サッカー部員がガコーンと缶を蹴飛ばせば軽く数十メートルは吹っ飛んでいくし、缶を目指して陸上部員とダッシュ力で競っても勝ち目はない。

隠れる方も、なりふり構わぬベトコンなみのガチな隠密行動。生け垣の中や排水溝にガッツリ身体を潜ませるくらいは当たり前。焼却炉の中にじっと身を潜め、ゴミを捨てに来た体育教師の腰を抜けさせた強者もいた。

鬼に名前を呼ばれないように紙袋を頭からかぶり、『エレファントマン』状態で缶を目指すのが流行ったこともあった。

コレをやられちゃうと鬼側はホントにどうすることもできないので(全員、同じような制服を着ているから判別不能で名前を呼べない)間もなく紳士協定で禁止となったが。

 

■缶けりのせいでサッカー部の試合に出られなくなった男

 

 

 

隠れる側は「どうやって鬼をヘコませてやろう」と作戦を練るのが楽しいのだが、十数人から嫌がらせをされているような状態の鬼はストレスが溜まるばかりだ。

鬼が全員を捕まえたら、最初に捕まったヤツが次の鬼になるというルールではあったが、前述のように鬼が不利すぎるルールのため、昼休みの最初にジャンケンに負けて鬼になったら、昼休みが終わるまでずーっと鬼というケースが大半だった。

それでも、次の日になれば鬼はリセット。新たに鬼決めジャンケンをすることになるので、昼休み一回分ガマンすればよかったのだが、ある時、毎回ジャンケンをする時間がもったいないという話が持ち上がった。

昼休み終了時の鬼・捕虜の状態を覚えておいて、次の日にはその状態から再開すれば、ジャンケンなしですぐにゲーム開始できるというわけだ(どんだけ缶けりしたいんだ!)。

しかしキツイのは鬼。

全員捕まえるまで何日にも渡って鬼を継続しなければならないルールは、ストレスを加速度的に溜めこんでいく。

5日連続鬼となってストレスが限界に達したNくんは一計を講じた。前日の放課後、いつも缶を置く定位置に杭を打ち込んでおき、それに引っかかるように缶をかぶせるという作戦だ。

杭に引っかかった缶は、全力で蹴られたとしてもあまり遠くまで飛ばないだろうという考えだったようだが、効果は想定以上に絶大だった。

鬼(Nくん)のスキをつき、いつものように駆け寄って全力で缶をトゥキックしたサッカー部のSくんは、鈍い音とともにもんどり打ってぶっ倒れた。

「杭にガッチリ引っかかった缶」というよりは、杭そのものを全力で蹴ってしまったSくんの足の指は、当然ヤバイ方向にモッキリと曲がり、骨折とまではいかなかったようだが、しばらくサッカー部の試合には出られない状態となった。

缶けりに本気になった挙げ句、高校3年生の夏という、部活動にとってメチャクチャ重要な時期を棒に振ったSくんは相当怒られたようで、これを期に缶けり戦線からは離脱。

間もなく、ボクらの缶けりブームも終焉を迎えた。

 

 

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