第十五回 遊園地のジェットコースターのカメラ?「ホテルハイチーズ」

 

 

 

寒風吹きすさぶ中、家の近くから見える遊園地に一人出かけた。特に深く考えて行ったわけではない。私の住む家の近くには、大きな川が流れている。その川の土手の脇に大きな木が1本だけ生えており、その下には3つのベンチが置いてある。昼間にそこに行くとご老人がタバコを咥えて遠くを見ている。私は彼らを賢者と呼び、その木を賢者の木と名付けている。

 

その賢者たちの目線の先に何があるのだろう、と思う。その方向に私も視線を合わせると、川を挟んで少しボヤけて観覧車が見える。山の上にある観覧車だ。賢者たちはタバコを吸いながら、流れる川のせせらぎを聞き、その遊園地を眺めていた。

 

賢者がそこにいる時間は昼間だ。その様子を見ている私もまた昼間にそこにいるということ。暇なのだ。そこで急に思い立って、その観覧車を目指すことにした。地図を見ると意外に遠いようなので、電車を乗り継ぎ遊園地に到着した。

 

平日で寒かったので、人は少なく遊園地は閑散としていた。悪夢にBGMをつけるとすれば、最適だろうと思う、オルゴールのような音楽が寒風に負けず流れていた。ジェットコースターは空席の多い状態で走っている。乗客のキャーという声がわずかに聞こえた。

 

私もせっかくなのでジェットコースターに乗った。一番前だった。私は別に絶叫マシンが苦手というわけではないけれど、自然に恐怖と驚きを混ぜた時のような声が出てしまった。後ろに座っているカップルは結構冷静だったようだ。一人で来ている私の方がなんだか盛り上がっている。

 

ジェットコースターを降りて、乗り場から出るとモニターがあり、そこに私が両手を挙げている写真が映し出されていた。ジェットコースターのどこかにカメラがあり、撮ってくれているのだ。1枚500円だったけれど、当然買わなかった。私の後ろのカップルも買わなかった。私が両手を挙げて盛り上がっているのが写真として邪魔だったからかもしれない。

 

このようなサービスは様々な遊園地で行われている。そして、ラブホテルでも行われていた。それは千葉県にあるラブホテル「ホテルハイチーズ」だ。千葉といえば、私が訪れた遊園地よりも大きな遊園地がある。そのホテルもその近くにある。最寄駅こそ違うけれど、周辺にはその遊園地の系列のホテルもあり、共に見かけはヨーロッパチックなので、子供が見たら間違えるかもしれない。

 

外観からもわかるように、ちょっと高級なラブホテルなのだ。「ハイチーズ」とホテル名を安く感じるかもしれないけれど、その書体はフランスの街角にあっても良さそうな感じで、声に出さなければ、そのハイチーズは高級感で溢れている。天使のトピアリーが並ぶ道を進むと、フロントにはフランス人のボーイが立っており、サービスも行き届いている。

 

部屋を選び番号をフランス人のボーイに伝えると海外訛りの強い日本語で、「アリガトウゴザイマス」と言い、鍵を渡される。鍵にはカメラのキーホルダーが付いていた。安っぽいキーホルダーな気がするけれど、ライカMDだった。本当のそのカメラは数十万円する高級なカメラだ。

 

部屋はいたって普通の高級ホテルの感じだった。リビングがあり、ベッドルームがあり、洗面所とお風呂場はガラスで区切られている。カメラの形をしたシルエットがアメニティに付いており、わざわざ作っていることがわかる。

 

テレビの上にはラミネート加工された紙が貼られ、そこにはベッドの上で行為をすることを勧めている。さらに自分たちのいいと思った時にハイチーズと言うことでサービスが発動するとも書かれていた。

 

私は一人で来ていたので、行為はしないけれど、ベッドの上に寝転んでハイチーズと一人叫んでみた。広い空間だったのでジェットコースターで挙げた声のように大きな声で言った。特に何かが起きた感じはしなかった。

 

特に面白みのない、高級なラブホテルだったな、と思いながら部屋を出てフロントに鍵を返しに行くと、厚手の紙が二つ折りされているものを、ボーイが笑顔で渡してくれた。上側にはホテルの看板と同じ書体で「ハイチーズ」と書かれている。

 

それを開くと、さっきの写真だった。ベッドに寝そべりハイチーズと言った時の写真。実に楽しそうな笑顔をしている。一人で大きなベッドでピースをしている写真。そう、このホテルのサービスはホテル名通り、写真を撮ってくれるサービスがあるのだ。そのカメラがベッドに向いているので、ベッドで行為をすることを勧めているのだ。

 

遊園地のジェットコースターと同じ仕組みだ。違うのは500円で買うのではなく、サービスで無料ということ。カップルはどのような気持ちでこれを受け取るのだろうか。男は間違いなく賢者となっている時間帯。その時間帯に二人の絶頂の写真を渡される。

 

ちょうど他のカップルが出てきて、写真を受け取っていた。女性は笑っていたけれど、賢者の時間となっている男性の方は、建物を出て遠くを見ていた。その視線の先には千葉にある大きな遊園地があった。賢者は遊園地を見る、世界の誰もが気がついていない現象に気づけるラブホテルだった。賢者は遊園地を見るのだ。

 

 

 

 

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