第十回 「その一言が、自己紹介」

 

 

現代のおヒューマン第2の社会、SNS。そこは「いいね!」やフォロワーをモテ指標とするならばそのモテを求め、初期設定としてのプロフィールを土台にテキスト画像動画を重ねて「そうありたい、そうみせたい自分」を自ら錬成することのできる、いうなればバーチャル都合いい自己紹介スペースの場でもあります。

 

SNSアカウント上では任意の人格設定を実装することは割合たやすく、またそれを本来の自分と錯覚しがちな罠があるのだけどそこに冷や水を浴びせてくれるのが、ラジオ番組の電話人生相談ですよ…。

アナウンサーやパーソナリティといった喋り方のプロではない、市井の人々の本人出演であるその声は生々しすぎて「こうであるはずの自分」と乖離した部分をさらけ出してしまう…現実の生身では人はなんて無防備…と膝も襟も、なんなら全ボディパーツを正してくれる無料公開矯正ツール…電話人生相談…。

 

感じて。本人による無意識の、ちょっとした言い方で漏れ出す本音と価値観を。

そのたった一言で自己紹介がなされてしまう恐ろしさを。

 

「できればゼヒ本放送を聞いて感じてみてほしい…」

 

 

妻との関わり方について相談申し上げたい周りから見ると平穏無事にみえるでしょうが私は相当無理をしており妻の一言一言がグサグサと刺さって私はいつまで保つんだろうという気持ちですと言い募る男性。

 

「ひとつひとつはつまらない事なんですがTVの役者さんにヘタだなとか学歴がこんなんじゃとかダメなんだよなあという会話すると観てる妻がいきなり怒り出したりします」

 

ハハーッ学歴、なるほど学歴、そちらが気になると。

そしていきなり着火してるのそっちじゃね?と思わないでもない中、男性が社会でやってきた価値観をなにも家庭で主張しないでもいいんだし外で友達とやれば?のアドバイスに

 

「あーっ友達がいないなー」

「あ友達がいないの?じゃあ趣味はないんですか?」

「そういういわゆる趣味はないんです私は基本なんでもできちゃうのでどこでも飛び込んでいけるタイプなので寂しくないんで仮に一人でも大丈夫なんで読書とか映画とかなんか作ったり楽しめる人間なんでやっていける人間なんで」

 

アーーーーッ奥さんーーっ大変ですね奥さんーーーっ。

 

 

実家の農業の繁忙期が来るのに勝手にパート更新をした妻に怒ったら出ていかれてしまいどうやったら戻って貰えるかの30代夫。

 

「妻をどう説得したらいいのか。妻はパート出てますが月8万なんですね、私の副業の方が収入あるんです150万円くらいです。家の手伝いで年間450万貰って」

 

ハハーッ収入、なるほど収入、収入高い方としての、なるほど。

 

「妻と元通りになりたいというのが私の最大の願いでありまして不可能でありましたら今年の繁忙期はなんとか乗り越えたい」

 

頼む、戻ってきてくれ、元に戻ってきてくれ、それが難しいならせめて繁忙期だけでも戻ってきてくれと、繁忙期>妻、の価値観を無邪気に全国無料配布してしまった田んぼの設計計画がだいじ農家マシーンこと長男夫よ…。

 

 

実母を介護するようになってから家庭がおろそかになってしまってきた妻にもう少し家事育児を見直して貰いたいという夫。

 

「家とか子育ても段々とおろそかな所が出てきたりとか話をしててもお母さんの事が多くなってきたものですから生活が段々楽しくなくなってきたって言ったら変ですけども」

 

夫の言い分、全てが怖いほどにノーガード…。

 

「母親が出なくてはいけない行事もすっぽかしたものですからちょっと家族大事にしてかなきゃダメなんじゃないかと言うと逆上したりとか、妻のお母様も言い方悪いですけど状況悪くなってくると思うんですよ、ええ。で、私がアドバイスとか優しさ出すと解ってない言われるとやりきれないというか」

 

一言一言にフックがありすぎて食いつかずにはいられない撒き餌にもほどがあるセンテンス…天性の煽り能力…そしてこちらも無邪気…。世界はまだこういう価値観で動いているのという絶望感を添えて…。

 

 

このように現実世界の生身は音声出力時の本音や価値観のコントロールが難しく、予想以上に無防備であり、自身が信じる自画像との落差には気をつけていきたいところであります。認識とは裏腹に加害と被害が一瞬で逆転する。自分も、そんな思い込みをしていないか。あっヤダ、してそう。

ちなみに最後の夫はさすがに「全部やらすなコチラに電話して来る前に自分の体を動かせ」とこの番組意義を覆すレベルで怒られてましたのでご安心ください。

どっとはらい。