第十三回 下着と水着と性的TPO


海派か川派かといえば、だんぜん川である。対岸が見えないようなだだっぴろいサンズイの河ではなく、滝がザーザー流れる音があちこちから聞こえる山の中、三本川の川。

ある年の夏(といっても子供たちがいたので成人もとっくに超えた年齢だった)、水着を忘れた友人が、川に入りたくていてもたってもいられずに服を脱ぎ捨てたことがあった。向こう岸から「脱いじゃったー!」とうれしそうに手を振るあのショッキングな姿はいまだに忘れられない。ベージュのブラジャーにパンツは、肌の色と同化してフルヌードにも見えた。それがまたすこぶるおそろしかった。

「だって水着と同じじゃん? 」

友人は、たしかに正論ではあるコトバを残してゴムボートに飛び乗り滝に沈んでいった。誰も助けようとはしなかった。

そうなのだ。

ランジェリー姿は私たちの着ていたビキニと素材以外はまったく同じではないか。

それでもなぜか、いけないものを見てしまったように、異様にドキリとするのはなぜだろう。これが友人でなくても、いや、なければなおさらモーレツな衝撃を受けるだろうし、どんなにチャーミングな女性であってもなんとなく「近づくな危険」というセンサーが働いてしまう。

つねづね先入観にとらわれないようにという高い意識でもって生活しているつもりの私は、要するに意識高い系といっていい。それでもやはり、この水着と下着についての先入観はどうあがいても払拭できない。どうにかしたいとは思っている。

想像してください。

どこからどうみても顔面スタイルともにパーフェクトな女性がスーパービキニスタイルで商店街を歩いていたらあなたはどうだろうか。 すっぱだかに近いその姿で

「ダブルチーズバーガーとポテトのLひとつおねがいします」

と言われたマクドナルドの店長(男性と仮定する)は、動じずにスマイル0円と言うナメたシロモノを提供できるだろうか。股間を奮い起たせる前に、ちょっとビビるのではないだろうか。もしかして保健所に通報するかもしれない。

ところが。そんな奇妙な1日を振り返りながら家に戻り、立ちっぱなしで疲れたカラダをベッドに沈めるべく布団をめくった店長が見たものは、朝10時5分西新宿行きのバスに乗り合わせる深田恭子と中島美喜を足して2で割ったようなカワイイオンナノコ(実在します)の下着姿だったらどうなのか。それがまた優香のあのロリ顔に似つかわしくないバストとヒップを持ち合わせていたら店長、あなたは、健康なオトコとしてどうするのか。コカン的にはどうなんだ。同じほぼハダカなのに、同じほぼハダカだけど、シチュエーションがちがうだけで、どうなの? 私はそれを、真剣に問いたい。

何が言いたいのか自分でもよくわからなくなってきたので言いたいことをまとめてみます。えーと。

下着とビキニはほぼ同じである。

だが海・川・プールでの下着はヤバい。

下着とビキニはほぼ同じである。

だがベッドでは下着にコーフンしてしまう。

下着とビキニはほぼ同じである。

だが海・川・プールでのビキニにはコカン的自粛することができる。

下着とビキニはほぼ同じである。

どっちにしろマックでは通報。

言いたいこと、わかっていただけましたでしょうか。

この世の男性陣の大脳センサーは、水着と下着、常人と奇人のちがいをミスることなく判断し、コーフンと冷静を分けて脊髄の中枢神経に瞬時に伝達して(勃起して)いる。大変ご苦労なことだ。だけどもこれって、自分たちの持ちあわせた先入観の仕業だと言えないこともない。

ちなみに、海と川の決定的ちがいのひとつに「ナンパ」がある。そもそも行く目的の需要と供給がちがうこと知りつつも、それでも圧倒的に浮かれて開放的な海の、かたっぱしから声をかけてしまうハレンチ感。(これが演歌的な日本海シチュエーションになればまた話はべつですので除外してください)夏にヤラれて判断能力がにぶるせいもあるかもしれないけれど、男連れだろうが子連れだろうがおかまいなしが海な一方、川はあくまで閉鎖的で、海がオープンなら川はクローズ。海がモテなら川は非モテ。海がクラブ(銀座でない方の)なら川は図書館だ。

海はナンパする場所であり、川はしない場所。そんな先入観が、すでに日本人のDNAに刷り込まれていているのだろうか。それをブチ壊すことは容易なことではないし、考えてみればべつにブチ壊す必要もなかった。

先入観に支配することなかれと生きてきた私だが、逆にこれらのために救われるケースもある。主に男性がその恩恵を受けている。屋内では、肌の露出面積が広ければ広いほど性的コーフンするというのに(推測)、海や川で目にするほぼ裸体ことビキニのおねえちゃんにはコーフンしない男性諸君、ナニゴト? すごい。いや、コーフンしないとは言いませんけども、少なくとも表面的には、というか身体の異変としての目視できるコーフンはまずない。同じ露出面積でも、素材(水着と下着は素材が異なりますので)やシチュエーションがちがうというだけでスルーできる能力。あるいは理性の百戦百勝。これはやはり、先入観の亜種のひとつだろう。

亜種は私が憎悪するTPOの類ともとてもよく似ている。TPOに関することは、おしなべてクソくらえ的なことが多いけれど、物事には陰と陽がある。TPOをわきまえた男性陣のおかげで、ボッキ男子たちであふれかえったビーチを目にすることもなく、あるいは通りすがりの男たちのコカンが次々に萎えていくこともない。よかった。世の男子たちが性的TPOをわきまえてくれていて本当によかった。ありがとう、性的TPO。これからもあらゆるシーンでその能力を発揮して、世界平和に役立ててもらいたいです。

今週のWEB

Vietjet Uses Its Provocative “Bikini Girls” To Buck International Trends To Get Attention In Vietnam

https://bit.ly/2ubtJvl

ベトナム航空がビキニモデルを使用した挑発的カレンダーです。

飛行機の中のビキニ。この場合の性的TPOは迷ってしまいますね。