第十七回 男子高校生は「食べ放題」で元を取るため命を賭ける

 

 

 

■男子高校生にとっての夢の店「食べ放題」

 

 

「食べ放題」

 

これほどまでにアホな男子高校生の感情をたかぶらせてくれるワードがあるだろうか? 「食べ放題」に対抗できるワードといったら「無修正」くらいのものだろう。

 

『東京ウォーカー』などの雑誌で「またかよ!?」というくらい繰り返し特集されているように、大人になってからもまあまあテンションを上げてくれる食べ放題の店だが、常時お腹を減らせている男子高校生にとってはまさに夢の店!

 

お腹いっぱいになれるし、好きな物ばっかり延々と食べていられるし、なおかつ値段は定額。

 

そんな店に行ったら、男子高校生はテンションが上がりすぎてクレイジーになってしまう。

 

ボクが高校生だった頃は、今ほど食べ放題という形態のお店は多くなかった。特に田舎だった我が地元にはそんなモノ影も形もなかったのだが、ある時、唐突に「すたみな太郎」なる焼肉の食べ放題店がオープンした。

 

「桃太郎」「金太郎」「浦島太郎」「蒲焼さん太郎」……世の中に「太郎」は数あれど、これほどダサい「太郎」があるだろうかという、泥くさい名前がつけられた謎の店に、最初は「何だこの店?」という印象くらいしか持っていなかった。

 

しかし、はじめて店内に足を踏み入れた時の衝撃よ! そこには「東京ディズニーランド」よりもテンションの上がる空間が広がっていた。

 

店内には、ズドーンと盛られた肉の山が無数に並び、焼肉をメインにしていながらも、寿司もカレーもプリンもアイスも食べ放題。……食い合わせとしてはだいぶアホだが、男子脳の興奮中枢をダイレクトに刺激してくるラインナップだ。

 

■元を取るために両手食い

 

食べ放題の店にテンションの上がった男子高校生がやりがちなのが「元を取るチャレンジ」。

 

店側からすれば、そうそう元なんて取れないように価格設定しているからこそ店が成立しているわけだが、まだまだ社会のことがよく分かっていない男子高校生は「メチャクチャ食べまくって店を潰してやるぞ~!」とか考えがちだ。

 

せっかくの楽しい店を潰して何の得があるのか分からないし、そもそも、大食いの人が来店しすぎて潰れちゃった食べ放題店なんてホントに存在するのだろうか?

 

さて、「元を取る」ためには当然、値段の高そうな食材を集中して食べていく必要がある。

 

「やっぱり高いのはカルビ! カルビを中心に肉を食いまくれ! 野菜なんて目もくれるなッ!」

 

男子高校生は「カルビ=高級。なぜなら美味しいから」と考えがちだが、実際にはタンやロースの方が……なんなら野菜や海鮮系の方が原価が高いようだ。

 

まあ、若い頃は「野菜よりも肉! 魚介よりも肉! 赤身よりも脂身!」という宗教に入っているから……。食べ放題店の思うつぼなのだ。

 

あとは、「コーラは350㎖で110円!(消費税3%時代……)3.5ℓ飲めば1100円だ!」とか「プリンは1個80円! 10個食べれば800円!」といった、バカ値段計算をはじめる。

 

コーラを3.5ℓも飲んだら、即座におしっこが甘くなる病気になっちゃうだろうし、そもそもそれ、原価じゃなくて売価だ。

 

利口ぶって計算すればするほど「元を取るのは不可能」と分かってしまうのだが、それでも「元を取る」ためにブレーキの壊れたスーパーカーで爆走してしまうヤツもいる。

 

スリムな低身長という、いかにも量を食べそうにないルックスをしているS先輩もそのタイプだった。

 

 

みんなで食べ放題店にやって来たというシチュエーションに飲まれ、変なテンションになっちゃったのか、両手に箸を持ち「これで2倍のスピードで食べられる」と、交互に肉を焼いては食い、焼いては食い(どう見ても普通に食べた方が早そう)。

 

「焼肉のたれ味ばかりだと飽きちゃうから」と、肉にコーラをかけながら焼くことによって味を変えるという荒技を繰り出す(S先輩いわく「肉がやわらかくなる」とのことだが……)。

 

「ずーっと食べ続けているとアゴがつかれる」ということで、肉を細かーく5mm角くらいにカットして、ザザーッと口の中に流し込んだり……。

 

もはや「確かに量は食えているけど、まったく美味しそうではないし、うらやましくもない」状態だ。

 

他のみんなが完全に飽きて、プリンや寿司を焼いたり、コーラとオレンジジュースとメロンソーダを混ぜて地獄みたいな色味の飲み物を錬成したりして、ヒマを潰す中、S先輩は120分の食べ放題タイム限界まで食べ続けた。

 

「元、取ったぞ! ざまーみろ!」

 

根拠のないまま、ものすごく勝ち誇っていたS先輩だったが、その後、思いっきり体調を崩して3日ほど学校を休んだそうな。

 

人生という勝負に完敗した上、おそらく食べ放題店にもまったくダメージを与えられていない虚無の戦い。

 

食べ放題とはいえ、量を食えばいいってもんじゃない、丁度いい量をおいしく食べるのが一番……とは薄々分かっているものの、そんなことでは爆走を止められない。それが男子高校生なのだ。