第14回  モテる人のモッテる本(後編)

 

 

私の周辺で最もモテそう、いや実際モテている男性Wさんはイラストレーター。おすすめしてくれたのは、〝何かを醸し出して〟いて、思わず手にとりたくなってしまう本。そんな言葉にできない〝色気〟のような魅力は、本にも人にも通じるモテの要素のひとつです。そして次に紹介していただく本は……。

 

——Wさんって漫画も読むんですね!

 

Wさん「けっこう読みますよ。この3冊は自分が好きな漫画の中でもなんとなくモテに関係がありそうだと思って持って来たのですが、どうでしょう…」

 

——この『日常』(あらゐ けいいち著 角川コミックエース)なんて、ふつうにギャグ漫画じゃないですか。

 

Wさん「おもしろいんですよね〜「日常」!声出して笑う漫画はなかなかないです」

 

——なんかちょっと意外です。

 

Wさん「『伝染るんです。』の世代というのもあって、こういうシュールな笑い、好きなんです。黒田硫黄『茄子』(講談社)は、周りでも好きな人けっこういるんですけど」

 

——茄子……ですか。タイトルからは想像つかないけど、どんな話ですか?

 

Wさん「茄子が出てくる短編のオムニバスで、たとえば教授のようなおじさんの家に、同い年くらいの女性がただ寝に来るという話とか」

 

——寝に?何もしないんですか?

 

Wさん「この女性は何年も眠れなくて、でもこのおじさんの家では、なぜかぐっすり眠れる。だから時どき寝るだけのためにやって来るんですね。隣で寝たりもするけれど、恋愛関係ではない。でも、互いに惹かれてはいるということはわかる。そうして何十年もずっと同じ関係のままという。

ほかにも、インドに旅立つ男の子と一緒に、クリアし損ねていたRPGを、ただただ徹夜でクリアする女の子の話とか」

 

——ひとことでは語れない、白黒ハッキリさせる関係じゃないんですね。

この、よしもとよしとも『青い車』(イースト・プレス)は……何とも言えない後味が残る作品ですが。

 

Wさん「よしもとよしともさん、大好きなんですよ」

 

——高校生の妹が姉の彼氏を取っちゃって、その姉が死んでしまい、妹はその彼氏と一緒に海に花を捧げに行くという、なんとも……複雑な気持ちになります。

 

Wさん「いいか悪いかじゃないんですよね。あと『マイナス・ゼロ』『一人でお茶を』が特に記憶に残っています。何が起きるわけでもないのですが」

 

——どちらも…ほんとに何も起きないですね!

 

Wさん「こういう、意識的に選んだわけではないけど勝手に記憶に残っているものって、あとあと考えると一番影響を受けているような気がします。

団子食べながら〝あれはあれでいい時代だったなあ〟とぼけた感じでひょうひょうと時代を超えていく軽妙な感じとか、海でぽつんと一人で泳いでいるのを客船から誰かが手を振っている白昼夢的で不思議な場面の余韻とか…」

 

——言葉にできないような気持ちや状況、いろんなものがグラデーションになってまじりあったものが、しぜんと残っているんですね。

 

Wさん「今って、政治でもSNSでも、ハギレ良い言葉とか、わかりやすい絵とかが目につきやすいと思うのですが、そういう単純に置き換えられる記号ではない、人それぞれに解釈や余韻を残すような話や絵に惹かれます」

 

——決めつけない、っていうのかな。

 

Wさん「近所に文学者の徳富蘆花の記念館があるのですが、邸宅の一室の床の間に、『人の子が貝堀り荒らす砂浜を 平らになして海の寄せ来る』という詩があったんです。子どもが遊んで砂浜がぐちゃぐちゃになっても、波が全部さらっていく。最後は全てを包み込んでくれるから、思いっきり遊べ、といった意味なのかもしれない、と勝手な解釈なのですが、とてもいいなと思ったんです」

 

——まなざしが素敵ですね。

 

Wさん「こういうふうに最終的に全肯定してくれると思うと、安心して好きなことができますよね。

保坂和志さんの『考える練習』(大和書房)本に、いくら根拠なく何かを思いついたり、こんなことを考えているのは自分だけかもしれないと思っていても、やがて同じようなことを言っている言葉に出会う。だからそのような不安定な状況を不安に思う必要はない、とあって、この盧花の海の詩のような言葉だなと思いました」

 

——たしかにWさんの絵って、自由度が高いというか、懐が広いというか、見る人が好きに解釈できる余地がたくさんありますよね。(匿名なので絵を見せることができませんが)その余地が色気、モテの秘訣になっているのかも。

たくさんの本の紹介とお話、ありがとうございました!