Case9 星に願いを 前編

 

 

 

 

「そういえば、君には兄弟はいたっけ?」

 

お店に来てから一時間ぐらいの時間が過ぎ、互いが二杯目のドリンクを頼んだタイミングで紘和さんは聞いてきた。

 

「私は一人っ子だよ。いきなりどうしたの」

 

普段、あまり私のパーソナルデータについて聞いてこない彼からの突然の問い掛けに少しばかり驚いた。彼は私の回答にどことなく神妙な面持ちでいる。今まで見たことが無い表情だ。

 

「いやね、俺には一人だけ弟がいるんだけど、そいつがちょっとね」

 

「弟さんがいるんだ!兄弟仲が悪いとか?」

 

新たに知った彼に纏わる情報にテンションが上がってしまう。だけど、私の気分の高まりとは反比例するように彼の眉間には皺が寄っていた。

 

「兄弟仲は悪くないよ、よく飯に行ったりもする。ただ、素行が悪い部分があってね」

 

「紘和さんの弟なのにヤンキーだとか?」

 

「そういう素行の悪さじゃない」

 

彼の声がいつもより低くなった気がした。店員さんがやってきて、二杯目のドリンクをテーブルに置く。私も紘和さんも、同じシャンパンベースの苺を使ったカクテルを頼んでいた。彼はそれを一口飲むと、ふーっと溜息をつく。どうやら、その弟さんは想像以上に深刻な問題を孕んでいるらしい。

 

「俺の弟は非常に優秀だよ。ヤンキーではない」

 

「頭の良さは紘和さんに似ているんだね」

 

「学歴のみを見れば、俺よりも優秀だよ」

 

「それなのに素行が悪いの?」

 

紘和さんよりも学歴が高く、なのに素行が悪い。なんて二律背反なんだろうか。人物像を想像したところで、とてもイメージがつくものでは無い。

 

「言っちゃえば、軽度の薬物依存」

 

“薬物依存”。ドラマやドキュメンタリー番組でしか聞かないその単語に思わず目を見開いてしまった。そして、その様子に彼はすぐ気づいた。

 

「覚醒剤とかではないよ。さすがにそっちに手を出していたら、いくら弟でも俺は容赦しない」

 

「じゃあ、何の薬に依存しているの?」

 

「睡眠導入剤とかかな」

 

「それを飲み過ぎちゃうの…?」

 

「飲み過ぎるだけなら未だいい。あいつは酒と一緒に過剰摂取をしている」

 

その光景を想像しても、何とも非現実的だった。睡眠導入剤も、ましてやそれをお酒で過剰摂取するなんてことも、私の人生に1mmも関与した経験が無いからだ。そもそも、何故そういった発想に及ぶのかも理解が出来ない。

 

「…なんでそんなことするんだろ」

 

単純な疑問だった。

 

「俺もよく分からない。何度も感情的にじゃなく、理屈で諭したところで変わった様子もない」

 

「うーん、困ったね」

 

 

 

 

 

 

 

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