第16回 本を読む人がモテる世界へ

 

 

 

 

「モテ」からはなはだ遠いと思われる「本」をテーマにしたこの連載もはや16回目。私が原稿を書くのは、家でも店でもなく、最寄り駅構内にあるお酒も出すカフェ。電源と、ちょっとつながりが悪いWi-Fiが使えます。

出勤前の数時間にモーニングセット500円、または仕事帰りにビールとおつまみセット1000円をオーダーして、できるだけ端っこの席でキーボードを叩くのがいちばん集中できるのです。

 

ある日のこと、何気なく周りを見渡すと何人か本を読んでいる人がいることに気がつきました。ほとんどの一人客はスマホを見ていますが、コーヒーやビール、ハイボールを飲みながら読書している人が、ちらほら……。

 

気になります、何を読んでいるのか。職業柄(本屋)、ものすごく気になります。チラッチラッと盗み見るも、店内は暗いし、たいていカバーをかけているのでタイトルすらわかりません。悔しい。けれどそんな「本を読む人たち」のたたずまいはしっかりと目に焼き付けました。

 

仕事帰りに一杯ひっかけて帰りたい労働者で席が埋まる夜9時。年の頃は30代半ば、ショートカットでぱりっとしたスーツ姿の女性。書店のカバーがかかっていますが、新書と思わしき本を読んでいます。

この春に課長に昇進した彼女は、部下のマネジメントについて勉強しているのかしら。それとも高校社会科教師の彼女は、個人的に好きな飛鳥時代の古墳について調べているのかしら。とか。

 

こちらも会社帰りらしいスーツ姿の男性。20代半ばくらい、入社したばかりでしょうか。文庫サイズの本を読んでいます。ハードカバーが出たときに読み損ねていた好きな小説家の新作が、気がついたら文庫化して駅の書店で平積みに。電車に乗るつもりが足を止め思わず購入、カフェで読み始めたところかしら。それとも来週初めて出張する四国で営業トークに困らないよう、47県ご当地ネタ本でマメ知識を仕入れるつもりかしら。とか。

想像だけが広がります。

 

 

カフェでも電車でも、本を読んでいる人を見かけることが少なくなりました。1車両に1人〜2人くらいでしょうか。新聞を読んでいる人は、もうほとんど見ないですね。

 

話はそれますが、わが家も新聞をとるのをやめて何年もたちました。アプリで読めるので世間から取り残されることはないのですが、何が困るって「野菜包み」です。気がつくと古新聞が家の中から消えていて、泥付きの大根をいただいたときなどはたいそう困りました。そんなわけで、古新聞を作るためにコンビニやキオスクでたまに朝刊や夕刊を買っています。

 

さて、今となっては珍しくなった、本を読む人。読書しているだけで目立つ存在になれるともいえましょう。たとえば電車やカフェ、待合室や公園のベンチといったありきたりのモノクロームの風景のなかで、あなたの周りだけに色がにじみ出すのです。これ、モテにつながらないでしょうか?

 

書店でつけてくれるカバーをかけていてもかまいません。むしろカバーつきのほうが想像がふくらんで、イイかも。出会うかもしれない誰かが、本を読むあなたをチラッチラッとのぞき見ているかもしれません。そのカバーをとったとき……もしかしたら何かがはじまるかもしれません。

 

かも、ばかりですみません。「本を読む人がモテる世界」を願う、一介の本屋の戯言でした。