第二回「運命は、アメーバー。信じてはいけない。」

 

 

・ずっと暑いのとずっと寒いの、住むならどっち?
・カレー味のウ◯コ、ウ◯コ味のカレー、選ぶなら?
・やりがいと収入、仕事にするならどちら?

“究極の選択”は、酒の席などで年に一度くらいのペースで話題にのぼる。「くだらない」と失笑した人も、自分に置き換えて考えだしたとたん、生死に関わる重大な問題みたいに真剣に悩んだりする。

この、切り替え(自分に置き換え)たときの脳ってどんな状態なんだろう。きっとふだんの脳細胞の様子とはちがう気がする。

信号が黄色をすっとばして赤に変わったとか、線路のポイントで分岐器が作動したとかで、いきなりガツンと進路を変更するんだろうか。このとき、脳細胞は、ピンボールみたいにカベにブチ当たったりしてせわしなく動きまわるんだろうか。
こういうことを考えだすとキリがない。宇宙に思いを巡らせたときと同じように、いきなり「無」になる瞬間がやってくる。そして結論なんか出るはずないよということにいきついてゆく。

究極の選択を与えられたとき、人は、即答派と長考派に二分される。それって人生の岐路で、決断に要する時間とリンクするような気がする。それに答えを出すまでの過程で、のほほんと生きているぶんには考えたこともなかった自分の本質にハッとすることもある。
「あーオレ、暑いの苦手なんだなー。北海道に住もう」
「もしかして私、ウ○コ味なら食べられるかもじゃん?」
とか。ウ○コ、食べたこともないのに。

究極の選択、いがいと奥が深くないですか?

恋愛ネタも、もちろんある。

「ルックスがよくて性格がわるい人、性格はすごくいいけどブサイクな人、どっちを恋人にするか?」
このあたりがテッパンだろうか。

よい性格の概念は千差万別だし、なにをもって美醜と捉えるかも十人十色だけれど、こまかな但し書きをいっさい省いてみる。シンプルなこの条件下で、恋愛対象者が世界にふたりしかいなかったとしたらどうだろう?
おのずと答えはでてくるような気もする。

それでも人は、うつくしい(と思う)ものに惹かれてしまう。満員電車の中でも、渋谷のスクランブル交差点でも、素早く好みのタイプを見つけることができる。

目の大きさ、唇の厚さ、服の上からわかる骨格、つり革にかかる指、ヘアスタイル、肩から下げたバッグ、アクセサリーや時計の類、そして靴。またたく間に全身トータルチェックをして、好みか否かをはじきだしてくれる私たちのかしこいCPUこと脳細胞!

先の選択で、「性格のよいブサイク」を選んだ人だって、もちろんひとめぼれすることもあるはずだ。そしてそのひとめぼれした相手を、願わくば運命の人と位置付けたくなるのもまた人間の性(サガ)だろう。

中学生じゃあるまいし、”顔が気に入った”だけでは人聞きが悪い。いかにもケーハクそうである。本気度をアピールするために、真摯な恋を誇示するためにはなんらかの理由づけが必要となる。けれどもない。理由がない。そこで、物的確証がなにもないあやふやな存在、運命さんの出番なのである。
「運命に導かれるように顔に惹きつけられた」とかなんとか言っておけば、たしかにその恋愛のホンモノ度はあがる。

運命は、尊い。

実は小さいころ同じ絵本が好きだったとか、互いの母親の出身地が同じだったとか、中学の修学旅行は同じ京都だったとか、しかも同じ清水寺に行ったとか、祖父母の名前の漢字が一文字同じとか、村上春樹より村上龍が好きなの同じだ〜とか、小さい頃セロリが食べられなかったの同じだね〜奇遇〜とか。こうなったらなんでもいいのである。ささいなことでいい。そのすべては、変幻自在なアメーバーこと運命にすり替えることができる。

運命は尊い。都合がいいという意味で、とてつもなく尊い。
誰にでも当てはめることができる、都合のいい尊いコトバである。

顔にホレたって、美脚にメロメロになったって、筋肉や、ふくよかだったり華奢だったりのカラダから好きになってもいいじゃないか。もっと言えば、収入や職種やお家柄込みでのお見合いだって、運命にちがいない。

地球上75億人から出会った相手だ。1分に137人、1日で20万人、わらわらと増加している人類の中のたった一人。そう考えると、出会いの理由やシチュエーションなどどうでもよくなってくる。コレもアレもどれもそれもあなたも私もここにいることもみんな運命だ。もはや天運など超越した、ほぼ、奇跡である。

一番やっかいなのは、誰にでも当てはまり、誰でもいい気分にさせ、誰をも誘導することができる「運命」。この言葉を安易に多用する人の多くは、ケーハクにも関わらずモテる、という点である。

なので、というコトバが適切かどうかはわからないけれど、下記のアドバイスを私は送りたい。

運命をダシに口説いてくる相手を信用してはいけない。

このコラムのほとんどはウソかもしれないが、これは、経験から基づいた、わりと本気のアドバイスだ。私の駄文をここまで読みきったあなたもまた、運命の相手だと断言する。

 

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