第十九回「追いこみ漁はすすめない」

 

 

 

ひと昔前の恋愛漫画だと、デートの誘いでよく「映画のチケットが余ってるんだけど、一緒にどう?」という場面があった気がする。もちろん、実際には余っているのではなく、デートのためにこっそりチケットを買った上で誘っているのである。誘う側の不器用さや、涙ぐましい努力を表すシーンだ。

最近の恋愛漫画のデート事情がどうなのかについては、よくわからない。最近は、王位継承権をめぐって念能力で最後のひとりになるまで殺し合う漫画とか、金塊の隠し場所を記した囚人の入墨人皮をめぐって北の大地で殺し合う漫画とかばかり読んでいるからだ。

そういえば昔、微妙な距離感の男の人に「新聞屋さんが水族館のチケットを2枚くれたんだけど行かない?」と誘われたことがある。ディテールの細かさから、あっこれは本当にチケットが余っているな……と思ったが、その分微妙な距離感を埋めるものを感じられず、けっきょく行かなかった。

どうせ誘うなら「ふたりで遊びに行かない?」の方が素敵なのに。「チケット余ってるんだけど」だと、予防線が目立ちすぎる。「手元に2枚のチケットがあったら、まずあなたのことを考える程度には好きです」というのがバレている時点で、素直に好意を出していったほうがいいんじゃないだろうか。

さらに、世の中には断ることにおそろしく慣れているプロがいて「残念~、その日はわたし空いてないんだけど、これって○○ちゃんが前から行ってみたいって言ってたやつじゃない? ○○ちゃん、いっしょに行ってきたら~?」とかいう荒業に出ることがある。○○ちゃんを巻きこまないであげてほしいのだが、誘った側にしてみれば「余ったチケットを何とかしたい」を「あなたと二人で遊びに行きたい」の前に出してみた自分のずるさに足をすくわれた形で、すごく痛い。

わたしの友人は、気になる女性を「仕事がらみの相談」という名目で食事に誘うことに成功したのだが、「仕事の話なら上司もいたほうがいいですね、連れていきます!」と言われ、心に深いダメージを負っていた。傷つかないために張った予防線を逆手に取られて反撃されるとより悲惨になる、という好例である。

 

最初から「×月×日ではどうですか?」と日付を指定するのは、断りやすくするために大事なポイントだ。候補日は、多くても2つまでにしておいた方がいいと思う。断りにくい誘い方は、相手に無駄なプレッシャーをかける。もし相手が忙しくてその日に用事が入っていても、あなたとデートしたい気持ちがあれば「その翌週なら大丈夫だったんですが……残念」とか言ってくるはずだし、そうでなければいったん引いた方がいい。

いや、別に今ここで玉砕しときたいなら、食い下がるのも勝手だ。恋愛は傷つくのが趣味の好事家のためのエクストリームスポーツなので。しかし、相手は崖とか海とかじゃないので、玉砕覚悟でぶつかられたら普通は痛いと感じる、ということは考慮してからチャレンジしたい。

 

たまに、追いこみ漁か何かと勘違いしている奴もいる。例えば大学生のときのサークルOBである某有名私立大学の教授は、ロックオンした女子大生に「いつなら食事に行ける??」としつこく迫ることで有名だった。自分の勤務先の学生に手を出したら一発アウトだからと、しつこく出身サークルの飲み会やイベントに顔を出して娘でもおかしくない年の女子大生を狙っている時点で、そのおぞましさが伝わるだろうか。

狙われていた子はどうしたかというと、「祖父が生死の境をさ迷っていて、いつでも駆けつけられる状態にしておきたいので当分行けません」と言って断っていた。当時は「その断り方は(露骨すぎて)どうなのか」と思わないでもなかったが、ここまで言われてなお食い下がると「危篤のおじいちゃんなんて放っときなよ」または「おじいちゃんいつ死ぬの?」と言っているのと同義になるため、さすがの教授も踏みこめない。意外と、これ以上の言い訳はなかったのかもしれない。

本当は「おまえと食事に行く無駄な時間はわたしの人生に一秒たりともない」と言えれば、どんなに楽だろう……。しかし、「追いこみ漁と勘違いしている奴ほど、真正面から断ると逆上する」というのもまた真理なのだ。

 

「×月×日って空いてる?」だと、これはこれで最悪の誘い方になる。野球がしたいのかアミガサタケを採りたいのか、飼っている犬を一時的に預かってほしいのかわからないと、これは返しづらい。100人中100人が「用件による」としか思わないだろうが、「用件による」と返してしまうと用件を聞いてからでは断りにくい。「その日は空いているが、おまえの犬は毛虫みたいなのであまり好きではない」よりは「ごめん、その日先約が入ってて~」と言うほうが圧倒的に楽だ。

結局「好意はわかりやすく伝える」「でも変な圧はかけない」というのがアプローチするときのポイントなのかな、と思う。そういうアプローチが明確に加点事由として働くかどうかは人によりけりで、結局はその前の好感度の積み重ねが勝負を決めているような気もするけれど……。

 

とはいえ、上記は人並みに傷つきやすい人間が関係を探っていくときの話であり「好意の圧が各方面に分散しているため、誘い方はプレッシャータイプなのに負担に感じない」というタイプも、例外的に存在する。要するに、わりと遊び人なことが明白で、誘われても何の心理的痛痒も感じずに断れるケースだ。「近寄るな」とか「保健所に通報するぞ」とか言ってもOKというレベルになると、逆に「たまには飲みに行ってもいいか……」という気持ちになるから不思議だ。

こういうことを言うと「結局遊んでる奴の方がいいんだろう! ただしイケメンに限る!」と、特に男性から反発されることがある。重要なのは遊んでるかどうかではなく、「はっきり断ったときに逆上されそうかどうか」だ。上に挙げてきた例でも、結局断る側が気にしているのはいかに逆上されずに断るか、ただ一点のみである。

そもそも、遊び人には単に顔がいい人もいるが、イケメンかどうに限らず「メンタルが謎なまでに強靭」というのが必須条件だからね……。何人も続けて断られても「じゃあ次いこう、浮かぶ瀬もある」と飄々としているのを見ると、「その鋼線入りの神経はコーナンに売ってますか? それとも島忠……?」と問いかけたくなる。

 

モテがテーマのオウンドメディアであるにもかかわらず、虫のことばかり書いていてもぜんぜん怒られない寛容な編集方針で知られるナポレオンが6月末で更新停止することになり、この連載も今回をふくめあと4回となった。たまにはまじめに恋愛の話をしようと思い、いい感じのアプローチとは何かについて考えてみたが、結論としては「誘う側も誘われる側も、逆上だけは回避していこう」という殺伐感が漂うものとなった。

恋愛、やはり逆上と距離が近すぎる。大変すぎて万人向けではない、というのが偽らざる感想である。