第二十三回 全裸で待ってて

 

 

 

ストリーキング(ストリーカー)の話題が、めっきり少なくなった。実際に少なくなったのかはよくわからない。あのような性癖がある人というのは、いつの時代も一定数いるような気がするので、メディアが取り上げなくなっただけかもしれない。つまらないな、と思う。

もしかしたら「なんですかそれは」という人もいるかもしれないので念のため説明しておくと、ストリーキングとは、公共の場を素っ裸で走りまわる行為、人のことだ。性器丸だしではあるけれど、そこに性的なニュアンスはない。本人も目撃者もない。彼らを見て、性的興奮を覚える人はまずいないはずだ。いたらそれはそれでちょっとヤバい。けれども公然わいせつで逮捕されるという、複雑な立ち位置である。

集団で行う全裸疾走もストリーキングと定義されるらしいけれど、個人的にはちょっと認めたくはない。素っ裸に見る強い意志と衝動、なにより狂気が感じられないのでつまらない。やっぱりおもしろくないものはダメである。自分の意思で、自由に服を脱いでむやみに駆けまわるのがストリーキングの醍醐味であり、彼らが崇高に見える瞬間だと思うのだ。子供のころ見たあれは、本当にうらやましかったけれど。

テレビで見たストリーキングたちは、野球場に出没することが多かった。みんな男でオッサンに見えたけど、実は二十代だったのかもしれない。だいたい毛深くて、汚らしいお尻をしていた(そう見えた)。彼らは、警備員らに捕まるのを不器用にかわして逃げまくるのだけど、スキがあれば万歳三唱したり、相手を挑発するかのごとく土下座をしたりする。ついに実行したという高揚と、観客の予想以上の反応に、喜びがピークに達してコーフンのあまり本人も何をどうしていいかわからなくなっていたんじゃないかと思う。バンザイと土下座…これはいかにも日本人だ。ストリーキングはDNAも試される。

野球場で防護ネットによじ登った男もいた。大した高さにも行けず、ぶら下がるような滑稽な姿、しかもフルチン尻丸出しである。子供にとってはセンセーショナルな構図だった。野次馬の熱狂、半笑いを堪えて中断する野球選手たち、とりあえず真顔だけども、ぜったい笑いたいでしょう! という警備員の顔。ゆるくて安全な犯行現場の目撃者たち…大人もけっこう面白いな、と思ったかどうかは忘れたけど、書いてみると実に楽しそうじゃないか。

海外でも、輩の出没場所はやはりスポーツ観戦の会場が多い。たしかにより多くの人に見てもらうにはうってつけの場所だし、メジャーなものになると中継をしている。であれば必ず放映されて話題になるだろう。ワイドショーで何度も流され、珍プレー好プレーのような特番でも取り上げられる。年々加熱する過剰なプライバシー保護にはうんざりしているので、自ら全裸になるストリーキングは見ていて気持ちがいい。モザイクをかけるべきは顔ではなく性器。じつにスカッとする。昨今ではオリンピック会場にも出没することが多いので、東京五輪はその一点で期待している。

リアルにストリーキングを目撃したのは中学生の頃だ。女性だった。彼女はすべてをむき出したまま笑顔で走っていて、それは、服を着た周囲のひとたちをあざ笑ってるようでもあったし、うれしすぎてとにかく笑わずにはいられないという笑みのようにも見えた。そんなに色白ってわけではなかったと思うけど、とにかく白かった。うっすらとした青白い光を発して、カラダ全体に白く靄がかかっている。そこに、ものすごい濃度の漆黒で、陰毛がすさまじくアピールしていた。黒々とした陰毛の存在感に比べたら、胸などないも同じだ、と思う。温泉や銭湯で女性の裸は見たことあるけれど、外で見るフルヌードというのは、とにかく陰毛がすごい。むしろ陰毛だけだと言っていい。

陰毛のくせに、思い返すと彼女はなぜかティンカーベルを彷彿とさせる。それくらいわたしは気が動転したし、幻でも見たような瞬間だった。繊細な小学生だったらショックでトラウマになる衝撃だろう。今でもあれは、夢だったんじゃないかと時々思う。

そんなことを友達のMに話したら、「ちょっとそれ、ステキすぎない?」と煙草を灰皿にキュッと捻り殺して身を乗り出してきた。滅多に吸わない彼女が、わたしから一本奪って美しい姿勢で吸っていた時だ。ちょ、それ、最後まで吸ってくれ、もったいないだろう! そんなことよりMは、ティンカーベルに反応したらしい。それは、目を疑うほどのショーゲキを受けてわたしが幻覚化しようとしたのではなく、陰毛女の内面を、きっと感じとったからだという。無邪気に放たれた色々なしがらみ。彼女の捨て身は無垢、純一無雑だと言うのである。「きっとティンカーベルは大人には見えないんじゃない? アソビさんがまだ子供だったからそう見えたのよ」

ヌーディストビーチに行きたくて、その準備だけはしてあるというM。40になる前にと、知人のカメラマンにヌードを撮ってもらっていた。もしかしたら、裸体に興味がある女性はみんな、妖精みたいに無垢な気持ちがあるのかな。美しく、広くモテる女性で、煙草を吸う姿も指先までインスタ映えだったのに、自分がティンカーベルになってしまった。今頃すべてのことから解放されてるだろう。そして空の上で、全裸で駆けまわっているといい。そのうちね。素っ裸で行くから、フルヌードで、待ってて。

今週のWEB 女性ストリーキングの第一人者Erika Roe、画像検索したら、現在62歳くらいかな。お美しい!

https://www.google.co.jp/search?q=Erika+Roe&tbm=isch&hl=ja&safe=off&tbs&safe=off&hl=ja&ved=2ahUKEwiBlszgrtfiAhUHfpQKHZmAA_YQ3Z8EegQIARAC&biw=375&bih=553