第19回 ページを開くと止まらない…イッキ読みするしかない一冊

 

 

 

 

当店は小規模個人商店で、一般書店のような卸ルートをもっていません。よって自分も読みたいから仕入れたいのに、システム上入荷できない本も多くあります。

そんなわけで、絶対に読みたい本は別の書店で買っています。

 

本屋が別の本屋で買うなんて?と思われるかもしれませんが、ないこともない話。

若かりし頃、某チェーン書店でバイトしていたとき、ベストセラーが品切れてしまい、線路向こうの別の書店に買いに走ったことがあります。店長に頼まれて。

 

1000円の本を、他店で1000円で買って、お客さまに1000円で売る。

当時の私の時給が確か800円程度でしたから、行って帰って30分、およそ400円をムダにしたともいえます。

 

ベストセラーを置いていないと評判を下げ、常連さんに行きつけを乗り換えられるよりは、利益ゼロでもバイトの時給内で処理するのが得策、と店長は考えたのでしょう。当時は「そこまでして?」と感じましたが、自分が店長になった今ならわかります。

 

話がそれましたが、私は読みたい本は図書館で借りるのではなく、書店で買います。自分の店で買えなければ、他店にお金を落とすことにしています。つまり著者や版元へのリスペクト……というと気障ですが、図書館で自分の順番が回ってくるまで待てないのです。

 

まさに最近の待ちきれなかった本が、この本。

 

『ストーカーとの七〇〇日戦争』(内澤旬子・著 文藝春秋)。

 

文筆家でイラストレーターの内澤旬子さんの仕事は『世界屠畜紀行』(解放出版社)の雑誌連載時に初めて知りました。世界各国の屠畜の現場を取材してイラストとともに記したルポルタージュです。(現在は文庫にもなっています。オススメ!)

 

その連載を読んだのはもう20年以上前ですが、イラストも文章もすっと頭に入ってきて、かつ持って行きたい結論に誘導するような表現をしないので、先入観なくぞんぶんに楽しめました。ハードカバーになったときも、もちろん買いましたね!

 

その後のお仕事はイラスト・ルポだけでなく、豚を飼育して食べたり、乳がんを患ったり、ヨガで体調を改善したり、モノを捨てまくったり、島に移住したり……と、ご自身が選んだりふりかかったりしたさまざまな体験をもとに多くの著作があります。

 

どのテーマもいっけん「ふつうでは体験できないこと」のように思えますが、すべて食べることや暮らすこと、生きることに基づきます。

同じ体験はしていなくても、同世代を生きる同性の人間として共感する部分が多々あり、読後はいつも「書いてくれてありがとう!!!」という気持ちでいっぱいになります。とても誠実な文章を書く方だからかもしれません。

 

そして最新作が、この本。帯文どおり「ありふれた別れ話から、恋人はストーカーに豹変し」て、多大な…なんて言葉では言い表わせない被害を受けた著者が、ストーカーだけでなく、被害者が十分守られないシステムや、自身の恐怖心ともたたかってきた記録です。

 

ストーカーAの卑劣な行為、反省のない態度。被害者に寄り添わないI弁護士や現状の制度にもめまいがするし、やりとりするのが警察をはじめ男性ばかりというのもキツい。

そして何より、文章をたくさん読んでいて、知識や根気が欠かせないような仕事をしてきた内澤さんをしても、判断力を大きくにぶらせてしまうほどの恐怖……。

ここでは内容について書きませんが(ぜひ読んで!)大げさでなく「ホラー」といえると思います。

 

振り返るのも忌まわしいであろう体験を一冊の本にして世に出した内澤さんの仕事によって、救われたり学んだりする人間はとても多いでしょう。

ただそれだけでなく、読み物=エンタテイメントとしての出来もすばらしく、ページをめくる手が止まらない。昨夜は電車を乗り過ごして終電を逃すところでした。

 

我を忘れて没頭してしまう、そんな本にまだまだ出会えるって幸せなことだなぁ。改めまして、そんな本を作ってくれる著者や版元のみなさん、ありがとうございます!