第三回 「夜の工事現場ストーリー ゴーマンな性質は態度にでる」

 

工事現場が好きだ。とくに夜が好きだ。
家々に灯がともり、一家団らんもそろそろというときに男たちがぞろぞろと集まって、ややだるそうにラジオ体操をはじめる。あれを見るのが好きだ。
青梅街道の新宿あたりはオリンピックまで工事をやっているのだろうか、いつまでたっても終わる気配がない。

 

 

先日も、深夜に水道工事を眺めていた。
大きな穴の中に、痩せて背の高いお兄ちゃんがふたり。双子みたいにそっくりだった。けして力強くはないけれど、長い腕をフルに使って、バケツで泥やら土を掬っては放り掬っては放りをくりかえしていた。知らない若者に意識をうつすとき、「同じ年頃かな?」と、息子(26才)と重ねてしまう。どこの親でも同じようなクセを持っているのかもしれない。
上京してきたんだろうか……? 昼間は学生? いや、音楽でもやってるのかな……コンビニ弁当ばっかり食べてるんじゃないの……? などと思っていたら、彼らの足元からバケツがニョキッと姿を表した。
あれ?
一人がそれを受け取り、中身の土を放る。バケツリレーだ。
目をこらすと、彼らの下に人ひとりが入れる深さの穴があるようで、そこから時々屈強な腕が見え隠れする。
きっとベテランだな……。
そんなことを想像しながら、カラダを動かして働く人たちを眺めるのは楽しい。

さらにその真横では、ショベルカーも稼働していた。こちらは盛大に土を掘り起こし、180度回転してトラックの荷台にドカンと移す。
穴の中で働いてる人たちにぶつかりそうでぶつからない。その連携プレーがプロフェッショナルで、うっとりと見とれてしまう。

かつて、工事現場を照らすライトといえば眩しいものばかりだった。今はどこにでもある、目にやさしいバルーンライトが登場したのはいつからか気になって調べてみたけれどわからなかった。2002年にはキャラクターのデザインバルーンが発売されたというからそれより前。となると20年近くは経っている。いつまでも見ていられるやわらかい光に感動してからそんなに経ったとは驚きである。気に入ってしまい、誕生日に恋人に買ってもらおうとしたら100万近くするとのことであきらめたんだった。今調べたら安いものでは20万くらいじゃないか……。だまされたかもしれないけれど、もらったとしてもいったいどこに置くつもりだったんだろうか、私は。

工事現場には、歩行者を誘導する人たちがつきものだ。正式には交通誘導員というらしい。最近では女性も見かけるが、彼らもみな好感度が高い。はりきっている人から少しシャイな人まで、それぞれのやり方と言葉で私たちを安全に通らせてくれる。その日は、少しだらけた感じの中年のおじさんだった。私はこの、”だらけた感じ”を見るのもまた好きなのだ。
「労働、だるいですよね〜」
と共感したくなる。

 

 

そんなふうにして『夜の舞台』を観劇していたら、私の横を好感度の低い男が通りすぎた。ぶつからんばかりの勢いである。どうして好感度が低いと思ったのか、理由はよくわからない。ただイケすかない感じをビシッと受けたのだ。いきおいでTwitterに「態度が横柄だった」と書いたけれど、じっさい横柄を具体的に説明せよと言われたらたぶん何も答えられない。とにかく私は、工事現場の人なのに珍しく横柄だ、そう思った。

その男を目で追ったら、カラダを動かさずにエラそうにしてるだけの若造だった。こちらも息子と同じくらいなような気がする。おそらく現場指揮者なんだろう。監督っていうのだったか。自分よりはるかに目上で先輩であろうおじさんに、不遜な態度で接している。 機械の音で声は聞こえないけれど、そぶりや表情でエラそうがにじみ出ていた。

学歴で決まる世界がある。たしかにある。それは否定しないが、地位や役職でデカい態度をとる人間は総じてダメ。
うわぁ〜目がつぶれるぅ〜と、おおげさにまぶたを覆いたい。私はスクッと踵を返した。
まったくひどいシーンだった。心が汚れてしまう。
工事現場をひとしきり眺めたあとは自分が労働したかのようにいつもさわやかな気分になるはずなのに、あいつのせいで最悪な気分だ。飛びゲリして穴に落としたい。

ダメ人間は空気でわかる。慢心はきっと、歩き方ひとつに出てしまう。おごりたかぶった性格をすでに醸しだしてるなんて、なんと不幸な若者だろう。これから先救いようがあるのだろうか。どうでもいいか。
穴には落としたいが埋めることまでしない。前途ある若者である。自分で泥まみれになりながら、這いあがってほしい。いややっぱりどうでもいいか……。
けっこうああいう男がモテたりする場合もあるし……。
まったくやってらんないですね〜と、先ほどのだらけた交通誘導員さんに会釈をしつつテレパシーを送った。

 

今週のWEB
THE MOST BIZARRE STUFF CAUGHT IN A BERLIN SEWAGE PLANT, FROM BULLETS TO FALSE TEETH
ベルリンの下水工事ででてきた、最も奇妙なモノたち
https://bit.ly/2kAluBG
弾丸からアヒルのオモチャ、入れ歯まで。
並べてみると、アート感がでてきます。

 

ナポレオンのメルマガに登録しよう!