第三回 異性として見たことのない男友だちが婚約。「私と結婚して!」

 

 

私のことを100%大切に思ってくれるのは両親しかいない

 

健康で、お金に困っているわけではない。友だちもいるし、趣味もある。でも、なぜか精神的に「落ちる」タイミングがある。外資系企業に勤務しているエリコさん(30歳)の場合は、例えば妹夫婦がすごく幸せそうな様子を目の当たりしたときだ。

妹とは男性関係も含めて何でも相談できるほど親しい。その幸福を姉として心から願っている。しかし、近い仲だけに置かれた状況をつい比べてしまうのだ。

「妹には旦那さんという絶対の味方が常にいます。でも、私のことを100%大切に思ってくれているのは、この世界にお父さんとお母さんしかいない。そんな風に追い詰められた気分になってしまうんです」

離婚歴のあるエリコさん。かつての夫はとてもいい人だったが、常識の中で生きる人だった。人間の素の欲望に触れていたい自分とは生き方が違う。よりを戻したい気持ちはまったくない。少し未練があるのは、1年前に別れた恋人のタカアキさんだ。

「ベンチャー企業の管理職で、頭はいいのですが徹底的にダメな人でした。私が仕事でやる気が出ないとき、『とりあえず酒を飲もうぜ~』と酒盛りを始めたり。一緒になってどんどんダメな方向に落ちていく感じです。すごく楽しいけれど、一生このままじゃマズイなとも思っていました」

周囲の人の影響を受けやすいと自覚しているエリコさんはタカアキさんを断ち切ることした。寂しくなったら彼はいつでも受け入れてくれるだろうという甘い見通しもあった。

 

背の低い男友だち。30歳を過ぎてカッコ良くなってきた

 

しかし、その後に連絡を取ったタカアキさんの対応は予想外に厳しいものだった。彼はエリコさんを深く愛していて、別れるときは一大決心をしたのだ。よりを戻したとしても、同じことを繰り返すのは目に見えている。ダメな自分からエリコさんは離れていくべきだ、と。

恋愛の刺激ではなく、精神的な安心感が欲しい――。「ダメ」な恋人と別れ、妹夫婦が愛し合う様子を見て、エリコさんは再婚願望が高まるときがある。これが「結婚期」だ。

最近、結婚期に突入したのは、大学時代の仲間であるアキラさん(31歳)が結婚したことがきっかけだった。身長がエリコさんと同じぐらいで、イケメンとは言えないアキラさん。男性として見たことは一度もない。しかし、朗らかな性格で周囲から愛されており、エリコさんとはずっと友だちだ。

「学生時代から数えると、過去10回ぐらい『セックスしようよ』と誘われました(笑)。そのたびに『ごめん、今日生理なんだ』と返すのが定番のやりとりになっています。彼は女友だちのほとんどとセックスしてみたいと公言するほど軽いんです。でも、嫌なことはしません。2人で旅行に行き、タオルを巻いて貸切露天風呂に入ったこともあります。そのときも何もされませんでした」

そんなアキラさんは年齢を重ねるごとにカッコ良くなってきたとエリコさんは感じている。商社での仕事に自信を深めつつ、学生時代と同じく常にニコニコしている。その様子が今では貫禄や安心感を醸し出しているのだ。

 

何でも見せてきた男性だからこそ、安心して落ち着ける

 

2年ほど前、アキラさんは恋人と婚約をした。そのことを知ったエリコさんは「私と結婚しようよ」と挑発。半ば冗談で、半ば本気だった。アキラさんは笑いながら「結婚してもいいけれど、エリコちゃんはセックスさせてくれないじゃん」と柔らかく断ってくれた。大人の回答である。

「私の友だちにすごい美人がいるんです。ずっと派手に遊んでいて、パリピのような人でした。でも、こないだ学生時代からの仲間の一人と結婚しました。言っちゃ悪いけれどブサイクな男性です。結婚式は完全に『美女と野獣』でしたね。でも、その彼は酒癖の悪い彼女のことを昔から面倒をみていました。何でも見せてきた男性だからこそ、彼女は安心して落ち着けたのだと思います。家に遊びに行ったら夫婦仲がすごくいいことが伝わってきました」

エリコさんも同じように落ち着きたいと思うことはある。でも、合コンや出会い系アプリで20代の高身長イケメンと出会って口説かれると、圧倒的な幸福感を覚えてしまう。いまのエリコさんは「結婚期」とは離れたところにいるようだ。

 

※登場人物の名前はすべて仮名です。

 

 

イラスト:吉濱あさこ http://asako-gaho.com/