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第二回「まるで大学芋なオールドファッション:120円(税込)」

 

2018年11月現在、実際のレートは113円前後を推移しているが、10月にあるものを購入したことがきっかけで、私の中ではしばらく「1ドル=約120円」という計算が働くことになりそうだ。それがセブンイレブンのセブンカフェ「まるで大学芋なオールドファッション」112円、税込120円。

 

信じられないほど美味い。日本一時帰国の滞在初日に軽い気持ちで購入し、あまりの美味しさに小首を傾げながらホテルの部屋で光の速さで完食し、その後もあれこれと他の菓子パンを買って食べ比べてみたがやっぱり最高に美味しいので、出発日の前夜にもまた買ってスーツケースに詰め込んで出国し、持ち帰った自宅で夫にまで食べさせて、そして二人して頬張ったまま「おいひい……」の他に言葉を失った。

 

まずドーナツのオールドファッションとして美味い、油がまったくしつこくないし、日が経っても程よいサクサク感としっとり感が見事に調和している。そして練り込まれた大学芋ペーストは、さつまいもの自然な甘みに、水飴による過剰な甘みを絡めた最強コンボ。実物の大学芋に近づけるというよりはイデアとしての「大学芋っぽさ」をとことん追求したような、ジャンクな風味が口中にしみわたる。

 

何を大袈裟な、と思われるかもしれないが、海外在住者にとって「こんなに美味しいものが、全国どこでも、税込1ドルで買えてしまう国、ジャパン」という衝撃は、何度でも全身を震わせるほどの威力があるのだ。

 

アメリカでだってドーナツは売っている、というかむしろオールドファッション発祥の国である。クッキーだってブラウニーだってパウンドケーキだって、あるいはスイートポテトだって売っている。でも不思議なことに、何故だか美味しく感じない。最初は自分が食べつけないから、つまりは「味」の問題だと思っていたのだが、だんだん「量」の問題であることがわかってきた。

 

 

◼️アメリカンサイズと引き換えに

 

この国はとにかく何もかもが大きい。そこらのコーヒーショップでちょっと甘いものが欲しいなとガラスケースを覗き込むと、マシュマロチョコチップクッキーはお好み焼き一枚分くらいの大きさ、アーモンドクロワッサンはオムレツ一皿分くらいの大きさ、バナナパウンドケーキの一切れは減量中のOLが職場に持参する弁当箱一つ分くらいの大きさ。カロリーはそれぞれを上回るかもしれない。ドーナツの直径は大差ないが、手にしてみると体感で三倍くらい重い。

 

軽い気持ちでおやつを購入すると、カプチーノ一杯飲む間には到底食べきることができず、残りの半日ずっと紙袋ごと持ち歩いて少しずつ齧り続ける羽目になる。食べても食べても減らない。舌が慣れてくるほどに砂糖の味しかしなくなる。栄養の偏りが気になるが、おやつだけで腹一杯になるのでまともな夕飯はとても入らない。

 

値段も一つ3ドルから5ドルくらいはする。毎度毎度、三分の一の量のものを、三分の一の値段で売ってくれたらいいのにな、と思う。一時帰国中に手にした「まるで大学芋なオールドファッション」の愉悦も、つまりはそういうことなのだ。サイズが三分の一、値段が三分の一、ちょうどよさが嬉しくて、美味しさも三億倍くらいに感じる!

 

手の込んだ複雑な味がする美味しいものを、ちょっとずつ食べたい。そんなワガママな欲望を叶えるために我が国ジャパンが傾ける大いなる情熱たるや、ほとんど狂気と呼んでよいレベルである。懐石料理や幕の内弁当の贅沢な彩りは言わずもがな、菓子パン一つでドーナツと大学芋とを同時に食べた相乗効果を狙うという天才的発想を売価1ドルで実現するなんて、クレイジーが過ぎるだろう。

 

渡米三年、不適切なタイミングで不適切なおやつを買って食べきれなくなるような失敗はずいぶん減った。コーヒーだけを買い、釣りを受け取り、チップ箱に1ドル紙幣を投げ入れる。薄汚れたこの紙片、「まるで大学芋なオールドファッション」とほぼ等価なのだ、と思うと途端に惜しくなる。

 

ところが同じ価値の1ドル紙幣を持っていても、この国ではあの幸福は売ってもらえないのだった。インターネットが地球を縮め、世界の誰とでも時差なくやりとりができ、円建てでもドル建てでもあれこれポチれば何でも自宅まで届く今日この頃、「故郷は遠くなりにけり」と感じる瞬間は、こんなときくらい。

 

初体験こそ一気食いしてしまったものの、食べれば食べるほどあまりの満足度の高さに恐れおののき、次に食べられるのは来年の秋以降かと名残を惜しみ、最後の一個は夫と半分ずつ分けて朝食とした。となると一人当たり50セント換算である。やっぱり意味がわからないが、十分お腹いっぱいになった。

 

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